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今回は、蕎麦のタンパク質の栄養価について、米、小麦と比較しながら話します。タンパク質は、ヒトにとって大切な栄養素で、アミノ酸と呼ばれる成分が多数結合してできています。アミノ酸は約20種存在しますが、そのうち9つは体内でつくれないので、食事から摂る必要があり、必須アミノ酸(EAA)と呼ばれます。さて、食品のタンパク質の栄養価については2つの面(①、②)から評価し、①はEAAの組成から評価し、②は消化吸収性の良否から評価します。①のEAA組成について、9つのEAAについてヒトが必要とする量を100として、どのEAA100に近い組成をもつ食品タンパク質は良質です。一方、1つのEAAが少ない時、このEAAがいわば全体の価値に足を引っ張る形となり、栄養価がそのEAAの相対値(アミノ酸スコアと呼び、以下スコアと略記)で評価します。全層蕎麦粉のスコアは92であり100に近く大変良好です。一方、強力小麦粉は38で極めて悪く、精白米のスコアは65で、3つの食品中では中間に属します。②の評価法であるヒトでの消化吸収率では、小麦粉は96%、精白米が88%で、蕎麦粉が85%の順となります。つまり、蕎麦粉は、スコアは高いが消化吸収率は低く、一方小麦粉はスコアが低いが消化吸収率は高い。米は、いずれもがその中間にあります。さて、バランスのとれた食事を摂ることがよく推奨されますが、食品タンパク質には補足効果という現象があり、1つの食品に別の食品を一緒に摂ると、スコアが改善されることが起こります。例えば食パン(スコアは44)に卵を添えると4476に上昇し、さらに牛乳とサラダを添えると92に上昇しますので、バランスのとれた食事の意味がよく理解できます。ところで、蕎麦タンパク質のように消化吸収率の低いことは、ヒトの健康に悪いのかという疑問が生じます。栄養学は進化、進展します。かつての栄養学であれば健康に悪いと言われていたことでも、今日のように肥満や生活習慣病の蔓延する世の中では、食べた物がすべて身につく必要は無くむしろ適当に身につかない方が良い場合もあります。一方、蕎麦のように消化性の低い難消化性タンパク質はレジスタントプロテインと呼ばれ、むしろヒトの健康増進機能が示唆されており、その機能の解明が大いに期待されています。さらに言えば、レジスタントプロテインがさらに栄養学の中で確立した概念となれば、腎臓病のようなタンパク質制限のあるような場合には大変有効な成分となる可能性もあります。今後の進展を大いに期待したいところです。

なお、アミノ酸スコアは、1973FAO/WHOパタ―ン、1985FAO/WHO/UNUパターンおよび2007 FAO/WHO/UNUパターンのいずれかで評価されますが、今回は1973FAO/WHOパタ―ンの評価値をお話ししました。

  
  
  
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