主婦が家庭で料理することが少なくなってきた。最近、朝日新聞が1700人のモニター調査をしたところ、毎日料理をする家庭は3%と少なく、週に1回程度する家庭を含めても料理をする家庭は60%に達していなかった。職業をもって働く女性は20歳代では76%、50歳代でも61%になり、夫婦共働き世帯は全国5300万世帯のうち1000万世帯を超えているが、食事作りは依然として8割近くが女性の分担になっている。そこで当然の成り行きとして食事作りにかける手間と時間をできるだけ少なくしようとする。また、食事つくりを家族への愛情であり、また義務でもあると考える女性が少なくなり、毎日、三度の食事づくりをする主婦は20歳代なら2割しかいない。30歳代から60歳代でも6割強に減っている。ある調査によると、家庭の夕食に一汁三菜をそろえることは、10年前には週に3回であったが、直近では1回に減っているそうである。

40年ぐらい前までは家族揃って家庭外で食事をすることはほとんどなかったが、最近では月に23回は家族が揃って夕食を外食店で摂ることが珍しくなくなった。 また、外食と家庭内食の中間に位置する「中食」が増えて、食事は家庭で用意するものというこれまでの概念が大きく変わってしまった。持ち帰り弁当屋、コンビニ、スーパーなどで販売されている弁当、総菜、調理パン、おにぎり,寿司などの持ち帰り食品がビジネスマンや学生、高齢者などの昼食、夕食に重宝がられている。平成23年度の家計調査によると、家庭の食費の12%が中食に使われ、20%が外食に支出されている。両方合わせると32%にもなるが、40年前には家庭で調理して食べるのが普通であったからこの比率は10%であった。今では日常の食事の3割は家庭で調理をしないで食べているわけで、若年単身者なら7割にもなるという。アメリカでも食費のおよそ半分が家庭外で消費されているという。

何から何まで手作りすることは出来なくなった現代ではあるが、さりとて家庭の食事作りをこれほどまでに人任せにしていてよいのであろうか。元来、料理は客をもてなすために作るものであり、家族や仲間に愛情を伝える手段であったのである。例え、それが粗末なものであっても母親が愛情込めて作る料理は親子の絆を結ぶ「おふくろの味」であったが、それが失われようとしているのである。NHKのテレビ番組「きょうの料理」で、働く女性のために「20分で作る夕食」を提案していた料理研究家、小林カツ代は「家庭の料理は毎日作るものだから、100%おいしいものでなくてもよいが、その代り子供のために毎日作ってあげてください。それが子供の記憶にしっかりと残るのです」と言っていた。

 たしかに毎日、食事作りをしていればマンネリになり、面倒で退屈な作業になるのかもしれない。食事作りをしなくなるのは、共働きの女性であれば時間がないからであろうし、老齢の主婦であれば体が不自由になり、料理をするのが億劫になるからであろう。加工食品、調理済みの食品を利用したり、外食店を利用したりすれば手軽でよいが、そのかわり、残留農薬のある野菜が使われていないか、遺伝子組み換え大豆が使われていないか、無検査の輸入牛肉ではないのかと心配をしなくてはならない。家庭で調理するのでなければ、地元の野菜や魚を使う地産地消も実行できないし、有機栽培野菜を使い、食品添加物を使わないで食事を作ることも難しい。何よりも家族の体調に合わせた栄養コントロールが難くなるのである。ハーバード大学のグループが調査したところ、料理にかける時間が長ければ長いほどその集団の肥満率は低いことが分った。別の調査であるが、日常的に料理する貧しい女性は、料理をしない裕福な女性よりも健康的な食事を摂っていたという。家庭料理が減るにつれて、肥満とそれに誘発される生活習慣病が増えてきたのは当然と言えるであろう。

 家庭料理には、家族においしい料理を食べさせてやろう、珍しい料理で驚かせてやろうという料理を作る喜びがある。じっくり時間をかけて作られた料理には、急いで食べてしまえないような何かがあるから、時間をかけて味あうことになり、食卓の会話も弾む。一つの鍋の料理を分かち合って食べれば、家族全員が一つの家族であると感じられる。愛情を込めて作った家庭料理にそのような力があると言うのは大げさかもしれないが、それほどの力はないというのも間違っているだろう。しかし、家庭で料理をするという文化は復活させることができるのであろうか。その際、問題になるのは食事作りを誰がするかということである。家庭料理の大切さを訴えるのであれば、料理は女性の仕事という従来の観念にとらわれず、男性も、そして子供も料理作りに参加しなければならない。

しろくま

  さん

家庭料理をつくるとなると、単に食事をつくるだけでなくて、家族みんなでの共同作業の時間もつくれますね。これからは家族同士での関わりも大事にしていきたいところです。

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