人間は「共食」をする唯一の動物であると言われているが、食べ物を仲間と一緒に食べる習慣はずっと早くから始まっていた。原始の時代、人類は体力的に弱い動物であったから、仲間と協力して狩りをしなければ獲物を捕えることができなかった。そこで、捕えた獲物の肉を協力してくれた仲間と分け合って食べるようになったのであろう。食べ物を分け与えることにより家族に愛情を示し、仲間をまとめることもできる。さらに、火を使って調理することを覚え、火を囲んで家族や仲間と一緒に食事をするようになるとコミュニケーション能力、つまり社会性が一挙に発達することになる。

 火の回りに集まって一緒に食事をし、寄り集まって眠るためには、仲間と仲良くしなければならない。仲間に入れてもらわなければ、食べ物の分配にありつくことができないから生きていけない。そこで、協調性のある個体が仲間に受け入れられ、次世代により多くの遺伝子を伝えることができたであろう。人類は互いに見つめ合っても冷静でいられる能力が発達し、相手の気持ちを察することがうまくなったはずである。つまり、料理をして仲間と一緒に食べるという行為を通じて、集団生活に必要な能力を獲得したと言ってよい。対面コミュニケーションは類人猿もするが、人間には白目があるので相手の視線の僅かな動きをとらえやすく、相手の気持ちを素早く読み取れるのである。こうした社会性の発達は複雑な言語能力の発達と共に、ホモ・ハビリスからホモ・エレクトスへ、さらにホモ・サピエンスへと脳をさらに大きく進化させる力となったのであろう。

 人類の脳の大きさは、所属する集団の人数に比例するという。集団の構成人数が多くなると社会が複雑になり、脳がそれに対応して発達するからである。集団の大きさが150人ぐらいに増えた60万年前には、人類の脳は現代人とほぼ同じ大きさになっていたと考えられる。150人と言えば、私たちが顔と名前を覚えて付き合っている人の数とほぼ同じである。しかし、集団の人数がさらに大きくなると、身の回りの仲間だけではなく、未知の人とも仲良くできる言語能力が必要になる。現人類、ホモ・サピエンスも、20万年前にはネアンデルタール人などと同様に、現実に見ている事象を仲間に伝えるだけの言語しか話せなかったに違いない。しかし、7万年前頃になると、現人類だけが脳細胞や脳神経を更に発達させて言語能力を高め、過去の経験や想像した事柄を語ることができるようになったらしい。かくして、ホモ・サピエンスは、それまでの経験を持ち寄って農耕、牧畜をすることを考えついたのであり、豊かな稔りを与えてくれる豊穣の神という空想上の権威を祭ることで多くの人々を取りまとめ、古代祭祀国家を誕生させることができたのである。

 その後、現在に至るまでの人類の偉大なる発展は、すべて原始のこの時期にホモ・サピエンスの頭脳に生まれた高度の認知、思考能力と、見知らぬ人とも意思疎通が自由にできる言語能力に発していると言ってよい。現人類が、ホモ・サピエンス、賢い人と呼ばれる由縁である。もっとも、このような脳機能の革命的進化がホモ。サピエンスにだけ起きて、ほぼ同時期に生存していたその他の初期人類には起きなかったのか、その違いは今のところ説明できていない。おそらく遺伝子に偶然に起きたごく小さな変異によるものであろう。進化論を提唱したチャールズ・ダーウインが「料理することは言語を使うことと共に人類が生み出した最大の発明」と指摘しているように、人類は食べ物を生のままではなく、火を使って調理して食べるようになったことで脳機能が進化、複雑化して、高度な社会性と思考能力を手に入れて今日の文明社会を築くことができたのである。

 火を使って調理することを覚えるまでは、食事は必ずしも共同体を形成するのに必要な行為ではなかった。猟は集団で行うが、得られた獲物は解体して分配し、一人で食べていたのであろう。だが、獲物の肉を火を使って調理することを始めてからは、仲間が集まって調理をし、一緒に食べるようになった。焚火の周りは人々の親睦や儀式の場となり、社会的な結びつきの場になった。火を熾す時間に集まって食事を共にすることから、社会が始まったのである。

しらたまあんみつ

  さん

火を使って調理をするようになってから、
秩序が生まれ、そして社会が築かれていったというのは、
驚きで、知る由もなかったです。
そして、協調性のある個体が生き残るようになり、
次世代へ遺伝子が受け継がれていく、
その遺伝子を継承したのが、我々一人ひとりなんだなと思うと、
なんか、すごくうれしい気持ちになります。

返信

しろくま

  さん

いろりの周りを魚で囲んで、何人かで暖め合いながら食べる姿を想像しました。
特に寒い地域だと、こういった仲間との協力がなお一層重要になってくるかもしれませんね。

返信

はんちゃん

  さん

今でもBBQとか、キャンプファイヤーなど火をつかって
コミュニケーション取ったりしますよね。

読んでいて、なるほど~と思いました。
食事が人類の進化、発展に繋がっていると思うと面白いですね!

返信

ほのお

  さん

人類が火を発見したことによって、
文明が大きく発展していったことがよく分かりました。
いま私たちがこうやって生活できているのは、
人類の祖先が、絶えず思考していたおかげです。
それを見倣って、現代の私たちも同じように
文明社会を発展させていくために
思考し続けなければと思いました。

返信