ヨーロッパ人は家畜の肉は勿論のこと、頭、内臓、骨髄まで食べられるところは何でも食べる。町の市場の肉売り場には肉の塊と一緒に豚の頭や内臓、目玉、尾などが売られている。農家では自分たちが飼っている家畜を自分たちの手で殺し、食用にするのは日常のことであり、昨日まで飼っていた豚や羊の頭や目玉が皿に載って出されても平気で食べる。残酷という言葉の感覚が日本人と全く違っている。彼らにとって家畜を殺すことは決して残酷なことではないが、可愛がっている犬、猫や小鳥などペットをいじめたり、殺したりすることは残虐な行為なのである。農家では家畜を殺して食用にするのは日常の作業であるから、そこには我が国のように家族同様に飼っている牛馬を殺生することを嫌う気持ちは生まれるはずがないのである。

 家畜を殺して食べることに抵抗感がないのは何故であろうか。人類が農耕、牧畜を始めて集団生活をするようになった時代、人々が生活の規範としたのは超人間的な神とその神話を信奉する宗教であった。農耕を行うだけでは食料が足りず、家畜を飼育してその肉を食べない限り生活が成り立たなかったヨーロッパでは、肉食を罪悪視する仏教のような宗教は受け入れられなかった。その代り、肉食をする遊牧民族の宗教であったユダヤ教、それを継承したキリスト教が受け入れられた。ユダヤ教やキリスト教では、牛や豚は人間に食べられるために神様が作ってくださったと教えているからである。

 キリスト教はヘブライ人の民族宗教であるユダヤ教から発展した。ヘブライ人は中近東の荒涼たる乾燥地帯で遊牧をしていた民族であるから、家畜を殺して食べることは日常のことであった。ユダヤ教の経典である旧約聖書の創世記には次のように書かれている。「神は自分のかたちに似せて人を創造し、・・・・・神は言われた。生めよ、増えよ、地に満ちよ。地のすべての獣、空のすべての鳥、地に這うすべてのもの、海のすべての魚は恐れおののいて、あなたがたの支配に服し、すべての生きて動くものはあなたがたの食物となるであろう」とあるように、人間はすべての動物を殺して食べる権利を神に認められているとはっきりと教えている。

 キリスト教には人間が現世で悪行を重ねれば来世は牛や馬に生まれ変わるという輪廻転生の思想はない。人間と動物とは全く別のものと考える遊牧民族や牧畜民族の思想は、神に祝福されて生まれた人間があらゆるものより優れていて、優先するという人間至上主義、人間中心主義に発展することになるのである。 キリスト教の思想には昔も今も人間中心主義の伝統が根底にあるのである。例えば、16世紀に起きた地動説騒動と19世紀の進化論論争は、近代科学と宗教の対立とみるよりは、地動説や進化論に反対したキリスト教会の立場が人間中心的であったからだと解釈するのがよい。キリスト教会が地動説を否定したのは、万物の長である人間が住む地球が宇宙の中心であるべきと考えていたからであり、人間がサルの子孫かも知れないという進化論を否定したのは、人間と動物は全く別物であるという人間中心主義の考えからであった。人間がサルの進化したものであり、そして人間が住む地球が宇宙の中心でないと考えるのは、当時のヨーロッパ人には耐えがたいことであったに違いない。

無銘

  さん

つまりウマ娘は宗教上冒涜にあたるのか。

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しんじ

  さん

 鯨、犬、そして馬まで。
 保護団体が「食用とするな」と叫ぶ。
 人は、食べずに生きることはできない。
究極的には、植物だけで生きることも出来るかも知らないが、そんな器用な人だけではない。百歩譲っても、人間が生きるためには、どうぶつの生活の場を壊したりもする。人間は、実に勝手な生き物である。

 私は、犬が大好きであるし、もちろん、犬を食べたこともない。だからと言って、犬を食べるなと言えない。それは、生まれた国、地域によって、生きるための糧が違うのは当たり前であると考えるからだ。

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ごり

  さん

お疲れ様です
キリスト教にもいいところはあると思うんですけど、共存という意味ではあまりよくない気がします

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ながの

  さん

家畜とか牧畜文化って遠すぎてわからないですね
"生きるために食べる"というシチュエーションがいまいちわかりません

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キンセンカ

  さん

動物より人がエラいとか考えたこともありませんでした
どちらかというと「生きるために仕方なしに肉を食べる」といった認識で生きているのですが
大多数の日本人はそうだと思います

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かじか

  さん

大変ですね
ヨーロッパの動物愛護精神って裏返しなんでしょうか?
不思議です

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クレマチス

  さん

肉食はたぶん人類の起源なんですけど、思想が別れていったのは面白いですね。
仏教的な考えの方が馴染み深いのですが、それはぼくが日本人だからでしょうね。

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しゃもじ各種

  さん

肉を食べるのは生活のためだとか生きるためだとか、そういうのじゃないんですね。
そのわりには動物虐待とか反捕鯨だとか、不思議な現象が起きてますね。

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いばらき

  さん

アブラハムの宗教の食肉観は、東洋文化と相容れないものがあります。
食べることを罪深いものだと思っていないというか…、西洋で盛んなベジタリアンの運動もその反動なのかなと思います。

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おこぜ

  さん

ペットと家畜ってどう区別してるんでしょうね?正直育てた動物を出荷できる気はしないです……。
慣れるんでしょうか。

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ポリゴン

  さん

お肉は好きですけど、その場で裁かれたお肉は正直食べたくないです^^;偽善的かも知れませんけど、お肉の流通に関わっている人は尊敬してます。

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しろくま

  さん

食肉一つとっても、考え方がこんなに日本と他の国では違うんですね。
世界の広さを感じる記事です。

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テスト

  さん

ヨーロッパはベジタリアンの方が多い印象ですけど、もしかすると過去の価値観の反動かも知れないですね。

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