パンの膨らみは、前回にイーストの出すガスによる気室の形成が大切だとお話いたしました。イーストの出す炭酸ガスなりエタノールが原因して小麦粉/水からなるかたまり(パンドウ)の中に多くの気室が形成されます。この気室の中は空洞となっているため、オーブン中で水はその中で水蒸気になります。オーブンからの熱は、多くの気室を使ってかたまりの中へ中へと短時間の内に伝導されます。そのため短時間でパンが焼けるわけです。


ところでパンの膨化はどういうことなのでしょうか。よくゴムフーセンがその例えにあげられます。この方がわかりやすいのです。パンはなぜふくれるのか。ゴムフーセンはご存知のように伸縮自在のゴムの中にプーと空気を吹き込んでやるとどんどんふくらんで行きます。そのあげくは、ゴムの伸縮が限界にくれば、爆発して破裂しますね。それがゴムフーセンです。最後は破裂です。


ではパンの場合はどうでしょうか。イーストはわざと小麦粉/水のかたまりの中に入れておいた餌の砂糖を食べ、エタノールやら水などとともに炭酸ガスを出します。イーストは砂糖を食べてどんどんガスを発生します。


パンを焼く時、一度はパンドウの気室をわざと圧力かけてつぶすようなこともします。しかしすぐにまた出来てきて、パンドウは膨らんできます。表面近くのものなんか、内部の透けてみえる様な薄い膜がおできのようにどんどんできてくることも見られますよね。


このパンドウが膨れる小麦粉材料ですが、小麦粉独特のタンパク質グルテン(化学的にいうとグリアジンとグルテニンタンパク質の混合したゴム状のもの)が先ほどのゴムフーセンのゴムに相当すると言っていいでしょう。そのグルテンタンパク質が、イーストの出すガス(ゴムフーセンならば子供が口から吹き込む空気)をキャッチアップして膨れるのです。


小麦粉の約7割はデンプン粒ですが、ねばりの有るグルテン膜の中に砂利のように入っているのです。丁度ビルを作るときに、セメントに水を入れて練り、建物を強化するためそこに砂利を入れますがデンプンはその砂利のようなものです。


イーストのガスはどんどん気室を作りそれが少しずつ膨張します。このパンドウはオーブン(220?230℃)中に入れて焼かれますが、温度がイースト死滅の高温になるまではイーストはオーブン中でもガスを出し、気室も膨張してオーブンスプリング(オーブンでパンドウが膨れること)をおこし、そのまま高温で焼かれて固まります。このオーブンスプリングの時に、パンはなぜゴムフーセンのように思いっきりふくれて破裂しないのでしょうか。破裂したらゴムフーセン状にペッシャンコになるはずですよね。しかしそうならずに我々はいつもふわふわのパンを食べることが出来ますね。


気室から出来たパンの穴をよく見ると、穴の表面には小さな切れ目がたくさん見えます。ゴムフーセンならあこの穴から空気が漏れて縮んでしまいます。パンの穴はその表面に割れ目があり,隣の穴につながっています。それをどんどんたぐってゆくと、パンのクラスト(パン皮)にまで到達し、クラストにも表面に割れ目があります。従って気室中の空気は、パンになると1個1個の気室を通って、どんどん外部に逃げているのです。従って気質中の空気は外へ抜けて、大爆発にはいたらなかった訳です。


それでは気室になぜこのような裂け目が生じたのか?そしてペッチャンコにならなかったのか?先ほどのゴム状のもの、グルテンはタンパク質です。この中には水がたっぷり含まれており、よく伸びる物質です。まさにゴムです。しかしタンパク質というのは生卵でおわかりのように、あのズルズルの生卵はゆで卵にすると白くかたまりますよね。あのようにタンパク質は加熱されると状態が変るのです。今ゴム状の良く伸びたグルテンの膜は加熱で変性し水を失い、固化して伸張性を失うのです。正にここで破裂が起るはずです。


しかし先ほど述べたように、小麦粉の約7割を占めるデンプン粒には別の性質があります。つまりセメント中の砂利のようだったデンプン粒は、オーブンの加熱によって糊になろうとします。その時、水が必要です。水はどこにあるのかというと、グルテン膜中の水を使うのです。グルテンが熱変性で水を弾き出したときに、すかさずそれをキャッチアップして、その水を使ってデンプン粒は砂利から糊に変身するのです。


丁度その温度(グルテンの熱変性と糊化)がほぼ一致しているところが面白いところで、パン組織が出来る妙味なのです。


つまりグルテンタンパク質が固まって水を放出する時間と、その水を受け取ってデンプンが糊になる温度の一致性です。パンの場合、デンプン粒が糊になると言ってもドロドロした糊ではなく、石ころが形を変えずに多少表面に粘りが出ると言った程度です。しかしこのデンプン粒の糊化が、今度はグルテンが壊れてペッシャンコになる寸前にパンの組織を支えるのです。タイミングも妙味ですね。


この製パン時に独特の仕事をするグルテンは小麦にしかないタンパク質です。パンは小麦でしか出来ない理由はそこにあります。


この小麦粉をヨーロッパ人の1%の人達が食べられないという深刻な問題もあります。これを食べると、慢性の下痢、子供の成長遅れ等のセリアック病になるのです。


来月6/8?11、フィンランドのテンペラ市でその学会があり、小生も出席予定です。その話は、帰国後です。
































匿名

  さん

グルテンは、小麦にしか含まれていないとは知りませんでした。パン作りには、必要不可欠ですね。
たとえ、パンが苦手だとしても、小麦を摂らない生活をすることは難しいと思います。
それでもまったく食べれない人もいるんですね。かなり食べるものを限定させてしましますね。

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らぁる

  さん

気室から出来たパンの穴をよく見ると、穴の表面には小さな切れ目がたくさん見えます・・・よく見ながら食べることがなかったので、こんどパンの中をゆっくり観察しながら食べてみようと思います^^

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mottei

  さん

パン作りを何度かしたことがありますが、
グルテンのモチモチや発酵してガス抜きをする瞬間の
手触りが大好きです。

フィンランドまで行かれるのですね!お気をつけて

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Shozzy

  さん

小麦粉を食べられない方がヨーロッパ人の1%もいるとは驚きです。ご飯食が多い僕でもパンが食べられなかったら大変だと感じます。ヨーロッパだと尚更でしょうね。

帰国後の記事を楽しみにしています。

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ジョー

  さん

パンで一番好きなのはカレーパンです。
あとは、揚げパンが好きです。

パンを揚げるという行為によって何か生地が化学反応を起こすということはあるのでしょうか。

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RYU

  さん

難しい話はわからないですが、

パンは好きです。

フランスパンは1本すぐに食べてしまします(笑)

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Pig。

  さん

グルテンは、小麦にしか含まれていないとは知りませんでした。パン作りには、必要不可欠ですね。
たとえ、パンが苦手だとしても、小麦を摂らない生活をすることは難しいと思います。
それでもまったく食べれない人もいるんですね。かなり食べるものを限定させてしましますね。

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shat

  さん

グルテンのちから不思議ですね焼き方によりふわふわパンが出来たりフランスパンの様な堅くなったり。
小麦粉で下痢を起こす方がいるのですね。

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