これまで、乾熱処理小麦粉を用いてホットケーキベーキングを行うことの可能性について述べてきました。これはクロリネーションに代替えする方法です。

小麦粉の乾熱処理が、ホットケーキの組織弾力性改良に効果のあることと、小麦粉中の強い疎水化の発現(PS区分とT区分の相互作用)との関連について、その証明が必要になります。

本学園、神戸女子短期大学助手の小澤美貴さんがこの研究に興味をもち、大きな仕事をしました。

彼女は小麦粉の乾熱処理を、120℃ 最大8時間から, 60℃ 最大540時間 (22.5日間)まで細かく処理条件を変えて、次々と乾熱処理小麦粉サンプル(トータルで54サンプル)を調製しました。

そのサンプルを用いて、ホットケーキの組織弾力性を調べてゆきました。やはり高温度にすれば短時間で、温度が下がれば長時間かけると同様の組織弾力性の得られることを詳細に調べました (FSTR.  2006 12:167-172)。


同時に小麦粉サンプルを片っ端から酢酸分画してWS区分、 G区分、 PT 区分,T区分を集めてゆくと、やはりホットケーキの弾力性が次第に強くなるに伴って、PS区分、T区分間の相互作用は強くなり,分離しにくくなりました。この相互作用の大きさとホットケーキの組織弾力性の大きさとは、大きな相関がありました。

更に小澤さんは多量の小麦粉を酢酸分画し、それらを用いて合成粉を調製し、そのうち1区分(例えばPS区分とか)のみ乾熱処理したもので入れ替えた合成粉によるホットケーキベーキング実験を進めました。

合成粉によるベーキングテストの結果、PS区分、T区分の乾熱処理による組織弾力性獲得が認められ、クロリネーション同様の効果が証明されたのです(Cereal Chem. 2008 85:626-628)。PS、T区分の両方を入れ替えた時が最も大きな弾力性が得られました。


小麦粉中7?8割を占めるPS 区分、T区分の相互作用は、ホットケーキ組織中にあってもしっかりした組織形成に貢献するするため、少々の加圧でもつぶれることがなかったのでしょう。


つづく。

sai

  さん

いつも楽しく拝読させて頂いております。

小麦粉を乾熱処理して、PS区分とT区分が相互作用で分かれなくなった状態と、PS区分・T区分をそれぞれ単独で乾熱処理した状態では、パンケーキに同じような影響をもたらすのですね。この結果で、乾熱処理がPSとT区分に影響を与えていることがわかりました。

PS区分・T区分を単独で乾熱処理したものは、バッター中で強く結びつくのでしょうか。
初心者の質問ですみません・・・。

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オサム

  さん

温度と時間の相関が明確に出るほど
小麦粉ってのは均一なものなのですね。
ある意味そこまで均一化できる
小麦粉を作る技術と言うのもすごいものですね。

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