パンの話34 (炭化セルロース粒/小麦粉によるパン?3)
セルロース粒サイズが大きいほど製パン性がよくなり、粒子サイズが小さいほど製パン性が悪くなるという発見は、前述のように非常識なことでした。
普通ならば、小麦粉ドウに異物をブレンドしてそのグルテンの性質を保持しようとするならば、異物をなるべく細かくして小麦粉と見分けのつかなくなるぐらいにするものです。しかし製パン結果は逆でした。
その頃、大学院に田原さんが入学し、この研究をすすめる事になりました。パンが膨らむという事は、小麦粉独特のグルテンタンパク質の均質膜形成(マトリックス化)することです。
グルテンタンパク質は水とともに撹拌する事で吸水して膜を形成し、連続性を有します。
イーストが発生するガスは、このマトリックスでキャチアップされ、そのままゴムのように膨らんでゆくのです。このマトリックス中に異物であるセルロース粒を石ころ状に混在させます。
田原さんはグルテンタンパク質をクマシーブリリアントブルーというタンパク染料(タンパク質を染める染料)で青色に染色して、このマトリックスの連続性を顕微鏡観測しました。
よく膨らんだ普通のパンドウ(コントロール)と、セルロースを混ぜたパンドウを夫々をクマシーブリリアントブルー染色したわけです。
コントロールのパンドウでは均一に青く染まり、異常は認められません。これに対し細かなセルロース粒の混入したものは、その異物の混在がマトリックス中に認められました。ガスがイーストから発せられ、これをマトリックスがキャッチアップする時に細かなセルロース粒の混入したものではマトリックスの連続性が弱められ、膜全体からガスは抜けてしまうのでした。
セルロース粒の大きなもので製パン性のよかったものは、クマシーブリリアントブルー染色はどうだったのか?
大きな島のようなセルロース粒のかたまりが、ブリリアントブルー染色した海のような均一のマトリックス中に浮いているようにみえました。発生したガスはこの均一なマトリックスにキャッチアップされ、膜の弱いところもなかったのです。従って発生したイーストガスはきちんとキャッチアップされてパンは膨化するのです。
セルロース粒は巨大なために大きな大海の中の島であり、大海の均一性にはダメージは与えなかったのです。
パンドウから漏れてくるガスを定量的に測定する装置(ファーモグラフ)があります。これを用いて田原さんは、粒子サイズを変えたセルロース入りドウから漏れ出るガス発生量を定量しました。
やはりセルロース粒サイズの小さいものではガスは抜けてゆき、セルロースサイズの大きなものはガスはきちんとドウに保持されていました。こうして製パン性の保持されること、顕微鏡的に均一なマトリックスが保持されていることとの関連性が認められました。
つづく
ぽん
さんクマシーブリリアントブルーを調べてみると、元は羊毛を青く染めるために開発された酸性染料である。と出てきました。それが、タンパク質の染色や定量分析に用いられるようになってきたのですね。写真で見ると、かなり鮮やかな青なので、食品としては違和感を感じそうですね。
わたぼう
さんセルロース粒の大きさによって
パンの性質が左右されるのですね!
とても興味深いです。
次回も楽しみにしています!
creo
さんセルロースというと植物の細胞壁?程度しか
連想することができませんでしたが
パンへ利用することができるなんて
素晴らしいですね!
もっとセルロースの価値が
社会的に知れ渡るといいですよね!
シフォン
さん「セルロース粒は巨大なために大きな大海の中の島であり、大海の均一性にはダメージは与えない。」なるほどです。食品化学は未知でおもしろいですね。大きいセルロース粒で作ったパンを食べてみたいです(*^_^*)
わらびモチ
さんセルロースは良く知っている単語ではありましたが、こんなに重要だとは知りませんでした。
セルロース粒サイズが大きいほど製パン性がよくなるなという事はとても勉強になりました。
先生のブログ勉強になりますのでよく拝見しています(^^)。
きなこ
さん食品は砂糖(セルロース)の量によっても変化しますが、粒の大きさでも変化するのは驚きです。
そう考えると食品化学の実験は奥が深く面白いと思いました。
りぃこ
さん最後に自分でパンを作ったのは10年ほど前になるので、
基本的なことを聞いてしまい申し訳ないのですが、
質問させていただきます。
先生の記述に、
「普通ならば、小麦粉ドウに異物をブレンドしてそのグルテンの性質を保持しようとするならば、異物をなるべく細かくして小麦粉と見分けのつかなくなるぐらいにするものです。」
とありますが、
これは、粉(例えば小麦粉以外の米粉など)としての異物ですか。
それとも粉以外(例えばクルミなど)としての異物ですか。
お返事お待ちしております。
おまめ
さんセルロース粒サイズが大きいほど製パン性がよくなり、粒子サイズが小さいほど製パン性が悪くなるということには驚きました。
常識をこえたセルロース、本当に奥深いですね。
今後もセルロースの可能性に期待しつつ、次回のブログも楽しみにしております。
夢苺
さんセルロースの粒の大きさで
パンをつくる際にこれ程までに
影響するんですね!!
とても勉強になります!!
ダンボ
さんマトリックスの中に有用なものを、詰めていけるなら、理想的なパンが出来るでしょうね。
話は変わりますが、マトリックスにセルロース粒が入っていく(捕捉される)様子は、たこ焼きのタコを、一個一個置いていくような感じなのでしょうか。それとも、団地のドアの前に一個一個置いていくような感じで、中の人が取りに来る様な感じなのでしょか。
化学音痴の独り言!
オサム
さんセルロース粒のサイズによって
海の一部になったり島になったりするのですね。
小麦粉の粘性との関係もあるのでしょうが
色々なものを混ぜたパンを作る時の目安になりそうです。