森元さんの食物栄養学博士の仕事が全て終了したのでこうして彼女の事を書いています。
森元さんは13年前、私のゼミで卒業論文を終了し、そのまま大学院 (修士課程)を終えて社会に出た後、さらに私のところで研究を続けてきたヒトです。
彼女は生まれつき難聴のハンデイを持っていて、声を聞き取りにくいところがありましたが、大学の授業ではノートテーカーなどのない時代、他人のノートを借りながら勉強してきました。性格は明るく、後でわかったのですが、お母さんの生き写しの様なヒトで、多分彼女のすべてを母親がバックアップし、お母さんの言う通りに生きてきたのではと感じられました。森元さんは自らのハンデイを背負いながら、世の中に対してぶちぶちと文句を漏らすようなヒトではありません。
彼女の卒業論文の仕事は、それまで大学院で仕事を進めていた二階堂さんの手伝いのような仕事でした。すでに二階堂さんはほぼ論文1報分をまとめていました。この二階堂さんの仕事をバックアップしながら自分の仕事として進めてきました。
その仕事とは製パンに用いられている冷凍ドウの仕事でした。
会社での仕事をやりながら、毎週土曜日には大学にでてきてこの仕事を続けました。
そのままオーブンで焼けばパンができあがるパンドウを作り、このドウを−20℃に放置して冷凍するのが冷凍ドウです。この冷凍ドウを必要な時に取り出し、解凍後オーブンで焼くのです。時間のかかる製パンにとって、大変に便利な加工方法です。しかしまともなパンは得られません。
森元さんはその原因を細かく調べ、うまく製パンの進まないメカニズムを解明しました。さらにそのメカニズムに基づいて、ドウにあるものを加え、冷凍ドウでも製パンに使えるようにしたのでした。あるものとはキサンタンガム、グアガム、ローカストビンガムの多糖類でした。
森元さんは、Cereal Chemistryに2報、FSTR(Food Science and Technology Research.)に1報の英文論文(フルペーパー)3報を書きました。この仕事に対し、神戸女子大学は食物栄養学博士の学位を与えました。学位論文"Breadmaking Properties of Frozen-and-Thawed Bread Dough" は、英文で58ページにわたる堂々たるものでした。
これで管理栄養士をもった博士が一人誕生いたしました。