戦争中の兵糧食、乾パンに興味を持つうちに、本「先任将校」に出会った。第二次世界大戦中の日本海軍の軍艦「名取」が米軍により雷撃され沈没した。太平洋に放り出された軍人のうち,195名がカッター3隻に分乗し、一人のリーダーと数名の副リーダー(著者ら)の下で10日間あまり、洋上をカッターで乗り切り、無事全員フィリッピンにたどり着くまでの様子を書いた本である。
手持ちの乾パンを30
日間に食い延ばすため、食事は朝晩2回とし、各人1回に一枚しか乾パンは食べられない。一枚3グラムの乾パンを、一日に合計2枚しか食べられなかった。乾パンは一袋に20枚はいっていたから、ひと袋を20人で分けていたが、この袋の片隅に小さな金平糖が2個入っていた。この金平糖を20人でまわしなめをするわけにもゆかないので、一応、回収して保管しておき、スコールが永く続いた後か、疲労の激しいときにこの金平糖を水筒の水に溶かし、砂糖水にして回しのみしたという。この砂糖水は、カッター生活にアクセントをつけたし、大きなはげみにもなったという。現在の乾パンにも入っている。乾パンなどの非常食に、金平糖をつける絶妙のコンビネーションである。
日中は暑いので船の中で体力を消耗しないようにし、夜間に舟をこいだようだ。はっきりした目に見える物もなく、リーダーの指示に従った日本海軍の兵士の物語であった。驚くのは、暴力と権力で統制された日本軍の中で、きわめて教養を必要とする生死を分かつ危険なこのような場面、よくこれら軍人集団を統制して乗り切ったものだという印象である。カッター内での反乱も起こったはずだ。よほどのリーダー、副リーダーたちのインテリゲンスが混乱を押さえはずである。本文からは全く読みとれなかった。著者は、リーダー存命中数十年間、彼の名前を本の中で明かさなかったという。