近代栄養学によって明らかにされた栄養の化学的メカニズムを要約して紹介してみる。
私たちは、食べものを体内に取り込むことにより生命活動に必要なエネルギーや身体の生育に必要な栄養素を補給する。食べ物には、三大栄養素、つまり糖質(主に澱粉)、タンパク質と脂質(主に脂肪)と、微量のビタミンとミネラルが豊富に含まれている。 糖質(主に澱粉)は消化器内でぶどう糖に分解されて吸収され、二酸化炭素と水に分解されてエネルギーを生み出す。この生体エネルギーを使って体内で無数の化学反応が進行し、筋肉の収縮、脳や内臓の活動、体温の維持などが行われる。タンパク質はアミノ酸に分解されて吸収され、筋肉や内臓、皮膚,髪や爪などをつくる原料になる。脂肪は脂肪酸とグリセロールに分解されて吸収され、細胞膜の生成に使われ、余ったものは皮下脂肪や内臓脂肪として蓄えられる。
人体を構成している無数の細胞の内部では、呼吸によって体内に取り込まれた酸素が、糖質を燃焼させてエネルギーを発生させる。心臓から送り出される血液は、食物から吸収した糖やアミノ酸、脂肪など栄養成分を体の隅々に運搬する。カルシウムやリンは骨や歯を形成するのに欠かせない。微量のビタミンやミネラル類はこれらの化学反応を円滑に進行させる潤滑油の役目をするのである。
このように、食物が体内で糖質、タンパク質、脂質などの栄養素に分解されて吸収されて、生命活動に必用なエネルギーとなり、あるいは体の筋肉や組織を形成する「栄養」の仕組みが、近代科学の力によって明らかにされて近代栄養学に発展したのは、19世紀の後半から20世紀初めのことであった。ギリシャ、ローマの時代には、自然の精気、プネウマが食物に取り込まれて体内に入り、生命の原動力になるのだと観念的に考えられていた。例えば、ヒポクラテスと並ぶローマ医学の権威者であった.ガレノスは、呼吸で取り込まれた自然の精気、プネウマが、血液により全身に運ばれて生命が保たれ、体が成長すると考えていた。しかし、ルネサンス時代になると、顕微鏡によって細胞が観察され、人体の組織や器官の解剖観察が行われ、それまでの観念的な人体の構造や生理に関する知識が根本的に改まった。食物を構成する成分は化学物質であり、人体における食物の消化、吸収現象はその化学物質の変化に他ならないと考えるようになったのである。
1827年、イギリスのW.プラウトは、食物から人体の栄養となる成分として糖、卵白様物質、油状物質の3成分を分離した。これら成分が、今日では炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質と名称を改めている三大栄養素である。人が生物として生きるのに欠かせない栄養素はこのほかにビタミンやミネラルなどが必要であるが、それらはすべて食物を食べることによって外部から補給しなければならない。われわれの体内で行われる様々な生命反応に必要な化学エネルギーは、糖質の分解と燃焼によって供給される。フランスのA.ラボアジェは1778年、呼吸により体内に取りこまれた酸素が糖質や脂肪を緩やかに燃焼させて熱エネルギーを産生し、二酸化炭素を放出することを明らかにした。タンパク質は多くのアミノ酸が結合したものであることを指摘したのはE.フィッシャであり、タンパク質は体内でアミノ酸に分解されて筋肉、臓器や血液を作るのに使われることを明らかにした。
堀坂宣弘
さん教えてください.「食の社会学 29 近代栄養学に基づく食事思想 その2」で,「糖質・・・・二酸化炭素と水に分解されてエネルギーを生み出す。この生体エネルギーを使って体内で無数の化学反応が進行し、筋肉の収縮、脳や内臓の活動、体温の維持などが行われる。」,「われわれの体内で行われる様々な生命反応に必要な化学エネルギーは、糖質の分解と燃焼によって供給される。」と書いてありますが,エネルギー源となる栄養素は,炭水化物(糖質),タンパク質,脂質,(アルコール)であると教科書などには書いてあります.タンパク質,脂質,(アルコール)のエネルギーは利用されないのでしょうか?