1.食料自給率が40%に低下してしまった

  戦後の40年を経て、日本の食生活はかつてないほどに豊かになったが、その食料は国内ですべてを自給できていない。第2次大戦後の昭和30年代に高度経済成長が始まり、国民の所得が増えるにつれて人口が9500万人に増え、さらには肉料理、油料理の多い贅沢な食事をするようになったので、食料の全体的な需要が数倍に増えてきた。昭和40年代になると人口がさらに増えて1億人を超すようになったから、国内で生産できる食料だけではまったく足りなくなった。自給できるものは米だけとなって食料自給率が70%から急速に低下し、平成10年以降は40%前後に低下してしまっている。日本人が国内で生産できる農産物で暮らせなくなり、年間に必要な食料の6割近い5000万トン余りを海外から輸入しなくてはならなくなったのは、かつてなかったことなのである。

 日本の食料自給率が欧米先進国に比べて最も低いのは、人口が多く、農地が狭いからである。現在、農地面積は約444万ヘクタール、人口は1億2700万人であるから1人あたりの農地は僅かに3.5アール(115坪)に過ぎない。欧米の先進国を見ると、アメリカは一人あたりの農地が160アールもあるから食料を十二分に自給して、余った多くの食料を輸出することができる。イギリスやドイツでも一人あたり30アールほどの農地があるから食料の70%程度を自給することができる。しかし、日本で食料を完全自給しようとすれば、現在の国内農地450万ヘクタールを三階建てにして使っても足りないのである。

 スーパーマーケットで輸入食料を探してみると、野菜や果物、鮮魚など生鮮食料品には原産地が表示されているから、輸入品はすぐに見分けられる。野菜は20%が輸入品であり、果物は60%、魚介類は36%が輸入である。パンやうどん、スパゲティー、サラダ油などは国内メーカーが製造したものだから国産だと思っている人が多い。ところが、原料に使用している小麦の85%、大豆の93%、トウモロコシのほとんど100%が輸入品なのである。牛肉は40%が国産であるが、国産牛の飼料は72%が輸入なのである。日本人がよく食べる魚介類は30年ぐらい前までは1100万トンを漁獲して自給していたが、今では自給率が64%に減っている。これも近海の漁獲量が最盛期の6割程度に減少したためである。

  しかし、国内で十分自給できる野菜や果物まで輸入しているのは考えものである。新鮮さが大切な野菜は、国内80万ヘクタールの畑で1700万トンを生産して自給していたのである。ところが30年ぐらい前から食品業者が安くて大量に調達できる中国産の野菜を輸入し始めたので、生産価格が高い国産野菜は作付け面積が55万ヘクタール、生産量が1200万トンにまで減少し、自給率は80%になってしまった。果物もみかん、りんご、梨、ぶどう、柿など十分な生産力があるのに、自給率はなんと40%に過ぎない。消費者が輸入のバナナやグレープフルーツ、オレンジなどを欲しがるからである。国産品のオフシーズンにはぶどうやりんごも輸入されるのである。消費者の安値志向とわがままな嗜好が国内で十分に自給できる野菜や果物までもを輸入させることになり、生産農家を苦しめている。                         

  このように国民が必要とする食料の大半を輸入に依存していては、不測の事態が発生したときに国民の食料が確保出来るかどうか心配である。農林水産省の試算によれば、食料が海外から全く輸入できなくなった場合、国内農地、500万ヘクタールだけでは1人1日あたり米、麦、芋を中心に1760キロカロリーの食料しか供給できないという。 我が国の食料自給率が低いことが問題視されるようになったのは、平成になってからである。それまでなんとか50%以上を維持していた総合食料自給率(カロリーベース)が平成10年に40%に低下して、これでは食料の安全保障ができないと心配されはじめた。その数年前、平成5年に米が大凶作になり東南アジア諸国から外米を緊急輸入するのに大変苦労した苦い記憶がよみがえった。既に昭和30年代後半から総合食料自給率は70%近くに低下していたが、食生活が洋風になって製パン用の小麦、食用油を搾るトウモロコシや大豆などを多量に輸入しなければならないのだから仕方がないと軽く見過ごされていた。しかし、突然、米不足が生じたことにより、近い将来、世界的な食料不足が生じたなら日本へ食料を輸出してくれる国はどこにもないことに気づかされたのである。

  現在、アフリカ諸国などでは8億人が飢えていて、餓死する子供が毎年、500万人もいるという。それなのに、世界人口の2%を占めるに過ぎない日本人が世界市場に出回る食料の10%に相当する6000万トンもの食料を平気な顔をして輸入している。日本の食料輸入総額は年間約670億ドルであるから、1ドルを100円に換算すると6.7兆円、国民一人あたりにしてわずかに51、000円で済む。自動車や電気製品などを輸出して外貨を稼いでいた高度経済成長期には、食料が足りなければ国内で無理をして増産するよりは安い海外農産物を買えばよいと考えて過ごしてきたのである。しかし、今後は世界の食料需給が危機的に逼迫してくるから、これまでのような大量の食料輸入を続けて行けるかどうか心配になる。すでに10年前から輸入穀物の価格が高騰し、国連食糧農業機構(FAO)の食料品価格指数はそれまでの2倍になっている。世界人口が急増し続けていること、世界第2位の経済大国になった中国が大豆を大量に購入し始めたこと、それに加えて石油の代替燃料、バイオ・エタノールの原料に使われるトウモロコシが増えてきたことなどが原因である。魚介類の輸入も難しくなった。近年、魚は脂肪が少ない健康食材だと見直されて、欧米での需要は3割、中国では5倍に増えている。従って海外での魚介類の買い付け価格が上昇し、北米産のマグロやカニ、ノルウェー産のサバ、モロッコ産のタコなどはこれまでのような安値では買えなくなっている。平成6年にはアメリカから輸出される水産物の65%を日本が買い付けていたが、平成16年には24%しか買えなくなった。このように、食料が買えなくなるのは戦争などの非常時に限るわけではない。これまでのように、世界中から食料を欲しいだけ買い集め、飽食できていた時代はすでに終わっているのである。

  なにはともあれ、将来の食料を安定的に確保することは国家の最重要課題である。狭い国土に多くの国民が暮らして豊かな食事をするのであるから、必要な食料を完全自給することはとても無理ではあるが、さりとて食料自給率が40%というのは先進国としてはいかにも情けない。せめて60%ぐらいは確保しておきたいが、頼りにする国内の農業生産は依然として回復する見込みがない。となると、現在の無駄の多い食生活を自粛するより外に道はないのである。脂肪の摂取過多になっている現在の食事を見直し、肉料理や油料理をセーブして40年前の日本型食事に戻せば、自給率は50%に回復し、同時に肥満や生活習慣病も解消する。さらに、年間2000万トンにも増えている食料の廃棄を減らし、食べ過ぎ、飽食している食料1000万トンをなくすれば、食料自給率は60%ぐらいに回復するのである。ご飯を中心にして魚と野菜を食べる和食は食料自給率の回復に役立つのであるが、しかし、健康のために和食を摂ろうとする人はいるが、自給率を回復させるために和食中心の食事をしようとする人はいない。

  今後は、いかに自給し、いかに輸入するかに加えて、いかに消費するかが大きな課題になるのである。消費者が無駄の多い食生活を自粛しない限り、将来の食料の安定確保はおぼつかない。今後は農水産物を値段が安い、高いで選択するのではなく、国内の農業、水産業、畜産業が維持できるように配慮して選択することが必要になる  そうして、海外からの食料輸入を安定的に続けるために、海外の食料輸出国と経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を結んで友好的な貿易関係を築き、今後の食料輸入を担保しておくことが必要である