3-2 食料生産とエネルギー

 食料の生産にも多くの化石燃料が使われている。昭和40年ごろまでは野菜や果物は旬の季節に多く食べるものであったが、平成になった頃からハウス栽培されたトマトや きゅうりなどがいつでも手に入るようになった。消費者が季節に関係なく1年を通して欲しがるためではあるが、そのために石油エネルギーが多量に消費されていることを知っている人は少ない。昔のように太陽と雨、風に頼る自然農業であれば、栽培に使うエネルギーは収穫される作物の食品エネルギー(カロリー)より少ないのが普通であった。ところが現代のように化学肥料や農薬を多く使い、機械化し、さらにハウス栽培をするようになると、より多くの化石エネルギーが使われて、収穫される農作物の食品エネルギーより多くなる。  

 例えば、米作りでは耕運機、田植え機を使い、除草剤を散布するから、米、1キログラム、3510キロカロリーを収穫するのに3190キロカロリーのエネルギーが使われている。ことに、野菜をハウス栽培すると多くの石油エネルギーが必要になる。きゅうりを畑で栽培すれば、1本、100グラムを収穫するのに100キロカロリーのエネルギーで済む。ところが、加温ハウスで栽培をすると、暖房に多くの燃料エネルギーを使うから500キロカロリーが必要になる。1本のきゅうりに62ミリリットルの灯油を使い、155グラムの二酸化炭素を排出したことになる。トマト、きゅうり、ピーマンなどは約60%がハウス栽培で供給されている。いちごは90%がハウス栽培である。真冬に温室でトマト1個を収穫するには2400キロカロリーの灯油、つまり300ミリリットルの灯油が使われる。これでは、トマトを食べるのではなくて灯油を飲んでいるようなものである。省エネルギー、地球温暖化防止のためにも、まず真冬にイチゴやトマトを食べることを我慢しようではないか。                 

 日本の農業生産に使用される全投入エネルギー(農業機械の燃料などに使う直接エネルギーだけでなく、化学肥料や農業設備などの製造に使用された間接エネルギーとの合計であり、ライフサイクルエネルギーともいう)は,昭和35年ごろに比べると3倍ぐらいに増えていて68兆キロカロリーにもなっているが、その7割はトラクター、ハウス暖房などに使われる燃料エネルギーと化学肥料、農機具,農業設備などの製造に使われる間接エネルギーとである。日本の農業は年間で石油に換算して680万トンものエネルギーを消費しているから、農産物の生産金額あたりで比較すると機械化が進んでいるアメリカ農業の5倍の石油を消費する「農業エネルギー消費の世界ワースト3」である。

 化石燃料を浪費しているのは農業だけではない。肉牛や高級魚の飼育にも多量のエネルギーが使われる。牛肉1キログラムを生産するには11キログラムの飼料穀物が必要で、同様に豚肉なら7キログラム、鶏肉なら4キログラム、鶏卵でも3キログラムの穀物が必要である。牛肉1キログラムの食品カロリーは2860キロカロリーであるが、それを生産するには10700キロカロリーのエネルギーが使われる。鶏肉でも4883キロカロリーのエネルギーが使われる。ぶり、1キログラムを海で漁獲するのであれば、漁船の燃料が3481キロカロリー、漁船、漁網などを製造するのに使ったエネルギーが1239キロカロリー、合計して4720キロカロリーあればよい。しかし、養殖であると8キログラムの餌イワシや養殖施設の電力などが必要になるので、35300キロカロリーのエネルギーが必要になる。ぶり切身100グラムについて灯油440ミリリットルに相当するエネルギーが必要なのである

   養殖魚が増えたのは漁業資源の保護のためでもあるが、なによりも消費者がおいしい高級魚を安値で求めるからである。鰻は97%が養殖、真鯛は82%、ぶりは66%、ふぐも52%が養殖になった。冬のトマト、霜降り牛肉、鰻の蒲焼、鯛の塩焼きなど、今日では贅沢とは思わずに食べているが、そのために多量の石油エネルギーが使われて世界のエネルギー問題や地球環境に悪影響を及ぼしているのである。

 加工食品を多く使用するようになったことも化石エネルギーの消費拡大につながる。例えば、小麦から朝食用のシリアル1ポンドを作るために必要なエネルギーは、小麦粉1ポンドを作るのに必要なエネルギーの約32倍にもなる。しかも多くの場合、シリアルそのものの加工よりその容器や包装材の製造に多くのエネルギーが消費されている。今日のアメリカにおいては、農作物の栽培、家畜の飼育から始まって輸送、加工、包装、保存、調理までをひっくるめた食料供給システムで使用されるエネルギーは、人々が食事から摂取するエネルギーを7倍から15倍上回っている。1キロカロリーの食事を摂るために、食材の生産から調理までに7~15キロカロリーのエネルギーが消費されているのである。