2.食生活における環境汚染

 私たちの食生活が環境に及ぼす負荷のなかで相対的に大きいのが、河川の水質汚染である。昭和33年に工場排水規制法、昭和45年に水質汚濁防止法が施行される前は、製造工場から排水と一緒に排出される有機物質汚濁がBODに換算して年間300万トンもあったが、その後、産業排水の浄化処理が本格的に始まり、約4分の1に減少している。BODとは,排水中に含まれている有機物を微生物の力を借りて浄化するのに必要な酸素量(生物学的酸素要求量)のことである。いろいろの有機物が排出されるのでその量を一括して表すのに使われる。家庭の生活排水による水質汚染は東京湾に流入する河川などでは総汚濁の6割ぐらいになっていて、その4割は台所から流される野菜屑や使い残した調味料、飲み残しの酒類などである。家庭の日常生活から排水として出る有機物はBODに換算して1人,1日で43グラムになる。そのうち台所の排水に含まれる17グラムの有機物は、下水道が完備していないと未処理のままで河川や海洋に放流されるので、集まればその地域の水質汚濁の原因の70%にもなることがある。下水道が完備していても下水処理場での処理エネルギーが大きくなる。使用済みの天ぷら油500ミリリットルを流しに捨てれば、それを魚が住めるようにBODが5mg/lになるまで希釈するには約20万倍の10万リットルの水が必要である。ラーメンの汁200ミリリットルなら、1050リットル、味噌汁お椀1杯、200ミリリットルを捨てれば1410リットルの水が必要である。飲み残し、食べ残しをしないようにしなくてはならない。

 家庭の食生活における省資源化についても触れておかねばならない。 スーパーでのパック販売、自動販売機、過剰包装のギフト商品などが増加して、食品、飲料用の容器、包装パック、トレーなどが家庭ごみの容量の3分の1を占めるようになった。これら食品の容器、包装材は年間、1000万トンあるらしいが、そのうち資源ごみとして分別回収されるものは260万トン、再資源化されるのは200万トン余りに過ぎない。台所から捨てられる使用済みの食品包装材や容器は戸別に分散して廃棄されるので、再資源化することが難しいのである。大部分は焼却するか埋めるのであるが、埋め立て用地に困っている自治体が多い。平成12年に循環型社会形成基本法が設定され、リデュース、リユース、リサイクルの3Rの考え方が導入されると、資源ごみの総排出量は減少し始め、資源化されるごみの比率は平均して20%に達しているが、ドイツの47%、オーストラリアの45%とくらべるとまだまだ低い。

 とくに、食品、酒、飲料用のガラス瓶、金属缶、ペットボトルは年間1500億個にもなるので、その回収と再資源化に多大の費用と手間がかかる。空き缶、ペットボトルは道端に散乱し、焼却するとダイオキシンを発生するなど環境問題も派生する。産業用に使用される段ボールケース、年間81万平方メートルのうち55%は加工食品、青果物の包装に使用されている.のである。このため、出荷ベースで2000万トンにもなる容器や包装材の回収と再資源化を促進しなければならない。ガラス容器、金属缶などのリサイクル率は平成2年にはどちらも40%あまりであったが、平成7年、容器包装リサイクル法が施行されてからはリサイクル率が向上した。平成17年にはスチール缶は84%,アルミ缶は81%,ワンウエイのガラス瓶は78%がリサイクルされている。年間260億個にもなるペットボトルのリサイクル率も85%を超えた。

 最近になって国際的に問題視されているのは、海洋に大量に投棄された廃プラスチックが破砕されてマイクロプラスチックとなり海の生態系を汚染していることである。リユースやリサイクルされない廃プラスチックの15-40%は海洋に投棄されて漂流し、漂着ごみになる。海岸に漂着したプラスチックごみは紫外線や寒暖差によって劣化し、海岸の砂と擦れ合って次第に破砕される。さらに再流出と漂着を繰り返すうちに大きさが5ミリ以下の微細片(マイクロプラスチック)になる。問題はこの小さなマイクロプラスチックに付着している有機汚染物質が鯨や魚類、貝類,海鳥、動物性プランクトンの体内に取り込まれることである。 2019年、主要20か国・地域首脳会議、G20サミットでは50年までにプラスッチクによる新規の海洋汚染のゼロにすることを目指すことになった。今年、国連では世界160ヶ国に呼びかけて2030年までに使い捨てプラスッチク製品を大幅に削減することを決議したのである。

 因みに、日本から海洋に流出するプラスチックごみは2万トンから6万トンであると推定されている。わが国でごみとなって廃棄されるプラスチック製の食品容器や包装材は年間約1000万トンで、その19%がパック、カップ、トレー、15%がボトルである。このうち家庭で使い捨てにされているペットボトル、レジ袋、包装容器などは約418万トンと推定されているが、そのうちリサイクルされるのは23%である。そこで、環境省は2030年までにプラスッチクごみの排出量を25%削減することを目標として、レジ袋の有料化、プラスチック製ストローや皿などの使用自粛を呼びかけている。レジ袋は、既に世界の40ヶ国で製造、使用禁止、83ヶ国で無料配布を禁止している。日本のレジ袋使用量は一人当たり年間400枚、総量20万トンと推定されていて、プラスチックごみの総量に占める割合は2%ほどで少ないが、暮らしに身近な存在であるので有料化して環境問題を考えるきっかけにするのである。使い捨て容器、過剰な包装を抜本的に減らすには今日の大量販売、大量消費の食品流通形態を変えねばならないが、私たち消費者もスーパーでレジ袋を求めず、過剰な包装を敬遠して、省資源と地球温暖化の防止を心掛けたい。