3.遺伝子組換え作物 

 遺伝子組換え農産物の輸入が許可されたのは平成8年である。遺伝子組換え農産物とは、遺伝子組換え操作によって害虫による食害を受けにくくしたトウモロコシ、特定の除草剤に対する抵抗性を付与したトウモロコシや大豆などである。これら作物は虫に食われにくいから、殺虫剤の散布回数を減らせる、あるいは強力な除草剤を散布しても枯れないから雑草を駆除しやすい。したがって、遺伝子組換え農作物の栽培面積はアメリカを中心に27カ国、1億9千万ヘクタールに広がり、特にアメリカではトウモロコシの80%、ダイズの92%が遺伝子組換え品種に替っている。遺伝子組換え農産物の栽培、流通を禁止していたEU諸国も平成17年には解禁している。

 日本に輸入されるトウモロコシの88%、大豆の93%、菜種の89%は遺伝子組換え品種であるから、知らず知らずのうちにこれらの遺伝子組換え農産物を食べることになる。そこで、消費者の不安を解消するために、遺伝子組換え大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、菜種、綿実を原料に使用した加工食品には遺伝子組換え農産物を「使用」したと表示することが、平成13年から義務付けられている。ただし、原料の集荷、輸送時にたまたま生じた5%未満の混入ならば規制の対象にならない。また、醬油、サラダ油、水飴などの原料に組換え農産物を使用する場合には、加工過程で組換え遺伝子やタンパクが分解されるので表示することはいらない。

 青虫に食べられにくい遺伝子組換えトウモロコシにはバチリス・チューリンゲンシスという昆虫病原菌の毒素タンパクの遺伝子が組み込まれている。この遺伝子により生成した毒素タンパクを蝶や蛾の幼虫が食べると死ぬから、この組換えトウモロコシは食害が少なく収穫量が増える。組換えトウモロコシに含まれている超微量の毒素タンパクは昆虫には有毒であるが、人や哺乳動物が食べても胃酸で分解されて吸収されないので無害である。特定の除草剤で枯れない遺伝子組換え大豆には、その除草剤に抵抗性をもつ土壌細菌のアミノ酸合成酵素の遺伝子が組み込んである。通常の大豆は除草剤、ラウンドアップ(商品名)を散布するとアミノ酸合成が阻害されて栄養障害が起きるので枯れてしまうが、組換え大豆では耐性のある土壌細菌の合成酵素が代りに働くから枯死することがない。従来は大豆が枯れないように除草剤を薄めて何回にも散布して除草していたが、組換え大豆であれば高濃度のラウンドアップを散布して一挙に雑草を駆除できる。土壌細菌のアミノ酸合成酵素は哺乳動物の体内では全く働かないので、私たちが組換え大豆を食べても危険はない。

 ついでながら、ゲノム編集操作を利用して太らせた養殖鯛やトマトなど「ゲノム編集食品」が令和2年から市販されている。ゲノム編集とは特定の遺伝子群(ゲノム)を切除したり、不活性化する遺伝子操作技術である。例えば、この方法で筋肉の成長を停める遺伝子を除去した真鯛は、筋肉がよく成長して魚体が肥大する。血圧上昇を抑制する作用があるGABAの含量を通常のものより4倍も増やしたミニトマトも開発されている。これまでの遺伝子組換え食品は食用に適しない外部の生物の遺伝子が組込まれているから食品としての安全性を審査しなければならなかったが、ゲノム編集食品は従来から食用にしている魚や野菜の遺伝子のごく一部が除去あるいは不活性化されているのだから、食べても危害はないと考えてよい。