4.BSE, 放射能、食中毒 

 平成13年、千葉県で狂牛病の牛が発見されると、市場で牛肉がいっせいに敬遠される騒動が起こった。狂牛病は牛海綿状脳症(BSE)と呼ばれている牛の病気であり、脳の組織がスポンジ状になって空洞ができるため、牛は神経中枢が働かなくなってよろけたり転んだりする。原因は脳神経細胞のプリオンたんぱくが変質して凝集蓄積するために、神経細胞が変性、壊死することである。この変質したプリオンが人に感染すると変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を発症し、患者は神経機能が衰えて呼吸麻痺を起して死亡する。イギリスでは1993年(平成5年)ごろから狂牛病に罹る牛が18万頭も発生し、クロイツフェルト・ヤコブ病の患者が延べ170人も出ていた。当時、イギリスやヨーロッパ諸国では、高栄養飼料として牛や羊の骨、内臓などを乾燥、粉末にした肉骨粉を使用していたので、狂牛病牛の肉骨粉をそれと知らずに使っていた数十か国で狂牛病が多く発生したのである。日本で輸入の肉骨粉を使用していたから、狂牛病の侵入を防げなかったのである。平成15年にはアメリカでも狂牛病に感染した牛が発見されたので、アメリカ産牛肉の輸入がストップした。

 農林水産省は輸入肉骨粉の使用を全面的に禁止するとともに、食肉にする牛を解体する際にBSE変質プリオンの汚染を検査する「全頭検査」を実施することに決めた。脳や脊髄に異常プリオンが検出されれば、その牛は全部を廃棄するのである。また、異常プリオンが検出されなくても、脳、脊髄、眼球、回腸遠位部は汚染危険部位であるので除去して食肉にすることを義務づけた。全頭検査は狂牛病の牛が最初に発見された平成13年から始まり、平成22年まで続けられて延1100万頭を超える検査をしたが、BSEに感染していると判定された牛は36頭であり、それも15年以前の感染であった。世界的にも一時は万頭単位で発生していた狂牛病牛がほとんどいなくなったのでBSE検査は次第に中止された。厳重な全頭検査を12年間も継続したのは日本だけであった。

 平成23年3月11日、東日本大震災が発生し、福島第一原子力発電所が津波で被災する事故が起きた。そして、溶融、爆発した原子炉から飛散した放射性物質で汚染された農産物や魚貝類を食することによる体内被曝の危険性が問題になった。厚生労働省は食品の放射性物質汚染の暫定規制値を500ベルクレル/kg(平成24年からは100ベクレル)と定め、この基準を超えた食品を市場に流通させないという出荷制限をした。事故後の2年間に23万件の農産物や魚介類を検査したところ、この基準を超えたいたのは2100件であった。平成24年に近隣18都県で671件の食事調査をしたところ、その汚染レベルは98%が1ベクレル以下であり、汚染の最大値は4ベクレルであった。4ベクレルで汚染している食事を1年間食べるとしても、それによる内部被爆は0.041ミリシーベルトであり、国が限度としている年間1ミリシーベルトを大きく下回る。幸いにして、近隣住民の食生活については大事に至らなかったのである。                                          

 食品産業の規模が大きくなり、製品の流通が全国規模に広がっているので、従来であれば数十人の発生で済んでいた食中毒事故が千人単位で発生するようになった。スーパーに出荷されたカイワレダイコンに腸管出血性大腸菌0-157が付着していて、6000人を超える集団食中毒が起きたのは平成8年である。平成12年には黄色ブドウ球菌の耐熱性毒素に汚染された雪印乳業製品により14000人の食中毒が生じた。食中毒でなくても、乳酸菌や野生酵母の混入による品質事故なども一度発生すれば巨大な事故となる。だから、食品工場や外食店では衛生管理を徹底して行うことが従来以上に必要になっている。そこで、平成7年に食品衛生法が改正され、「総合衛生管理製造過程の承認制度(HACCP)」が、乳製品、食肉製品、水産練り製品、レトルト、缶詰、清涼飲料などの食品メーカーに導入されることになった。HACCPとは食品工場で起きる衛生事故を防止する新しい生産管理システムである。食中毒の原因となる微生物、食材に混入する農薬や抗生物質、洗浄剤や殺虫剤、金属片、ガラス屑など、危害物質が混入しやすい生産工程を選び出し、その工程を「CCP,最重点管理ポイント」として重点的に監視して、危害(HAzard)を許される限度まで小さくするのである。