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蕎麦は、世界各地で広く利用されています。世界を見ると、イタリア(特に北イタリアのバルテリーナ地方)でも、蕎麦は伝統食品であります。ピツォケリ(長いパスタ)、ポレンタなど様々な蕎麦料理があります。このポレンタには、トウモロコシを材料にするものと、蕎麦を材料にする2つがあります。ポレンタは、穀類粉にチーズとバターをたっぷり溶かしこんだ、いわば洋風そばがきのような食べ物です。私達の多種の穀類生地を用いての多変量解析では、蕎麦とトウモロコシは咀嚼した時の食感が比較的類似していることがわかり、イタリアの人達は東方から来た蕎麦と、西方から来たトウモロコシを同じように楽しんでいたものと思われます。ところで、トウモロコシは、ご承知の通り大航海時代に欧州へ伝播して行きますが、トウモロコシだけを単品で食す人々、あるいはトウモロコシしか食べれない貧しい人々に、ペラグラ(ペラグラはイタリア語で荒れた皮膚の意)という死に至る大変恐ろしい病気を起こし、始めはスペイン、イタリアで起こり、次いでフランス、アメリカなどでペラグラが蔓延することになります。以前にも書きました通り、ゲーテの「イタリア紀行」(1786)には、イタリア人がトウモロコシと蕎麦を食する様子と、ペラグラの蔓延している様子が書かれています。トウモロコシは、ナイアシンというビタミンが利用しにくく、またトリプトファンというアミノ酸が少なく、この特徴によってペラグラが起こると考えられています。一方、メキシコやマヤ文化の人達は、トウモロコシを多く摂取するにも拘らず、ペラグラにはほとんど罹患しないことが知られています。メキシコなどでは、トウモロコシは石灰水で加工されてトルティヤという料理で利用されます。この特有の加工法が、ペラグラ発症の抑制をすると考えられています。しかし、なぜペラグラ発症が抑制されるかの理由については、ナイアシンが利用されやすくなるなどが考えられるのですが、未だ正確にはよくわかっているとは言えません。栄養学は、大変奥の深いものです。また、「たかが食べ物、されど食べ物」といった感であり、食べ物のちょっとした加工・調理法の違いよって大きな栄養問題を引き起こすことに私達栄養学を学ぶ者にとっても大変驚かされるものです。他方、蕎麦は特に栄養障害を起こすことなく伝播して行きました。

  
  
  
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