セルロース粒サイズが大きいほど製パン性がよくなり、粒子サイズが小さいほど製パン性が悪くなるという発見は、前述のように非常識なことでした。
普通ならば、小麦粉ドウに異物をブレンドしてそのグルテンの性質を保持しようとするならば、異物をなるべく細かくして小麦粉と見分けのつかなくなるぐらいにするものです。しかし製パン結果は逆でした。
その頃、大学院に田原さんが入学し、この研究をすすめる事になりました。パンが膨らむという事は、小麦粉独特のグルテンタンパク質の均質膜形成(マトリックス化)することです。
グルテンタンパク質は水とともに撹拌する事で吸水して膜を形成し、連続性を有します。
イーストが発生するガスは、このマトリックスでキャチアップされ、そのままゴムのように膨らんでゆくのです。このマトリックス中に異物であるセルロース粒を石ころ状に混在させます。
田原さんはグルテンタンパク質をクマシーブリリアントブルーというタンパク染料(タンパク質を染める染料)で青色に染色して、このマトリックスの連続性を顕微鏡観測しました。
よく膨らんだ普通のパンドウ(コントロール)と、セルロースを混ぜたパンドウを夫々をクマシーブリリアントブルー染色したわけです。
コントロールのパンドウでは均一に青く染まり、異常は認められません。これに対し細かなセルロース粒の混入したものは、その異物の混在がマトリックス中に認められました。ガスがイーストから発せられ、これをマトリックスがキャッチアップする時に細かなセルロース粒の混入したものではマトリックスの連続性が弱められ、膜全体からガスは抜けてしまうのでした。
セルロース粒の大きなもので製パン性のよかったものは、クマシーブリリアントブルー染色はどうだったのか?
大きな島のようなセルロース粒のかたまりが、ブリリアントブルー染色した海のような均一のマトリックス中に浮いているようにみえました。発生したガスはこの均一なマトリックスにキャッチアップされ、膜の弱いところもなかったのです。従って発生したイーストガスはきちんとキャッチアップされてパンは膨化するのです。
セルロース粒は巨大なために大きな大海の中の島であり、大海の均一性にはダメージは与えなかったのです。
パンドウから漏れてくるガスを定量的に測定する装置(ファーモグラフ)があります。これを用いて田原さんは、粒子サイズを変えたセルロース入りドウから漏れ出るガス発生量を定量しました。
やはりセルロース粒サイズの小さいものではガスは抜けてゆき、セルロースサイズの大きなものはガスはきちんとドウに保持されていました。こうして製パン性の保持されること、顕微鏡的に均一なマトリックスが保持されていることとの関連性が認められました。
つづく


